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2005 F 129 Min. 劇映画
出演者
Laurent Lucas
(Alain Getty - IT セキュリティー会社の有能な技術者)
Charlotte Gainsbourg
(Bénédicte Getty - アランの妻)
André Dussollier
(Richard Pollock - IT セキュリティー会社の社長、アランの上司)
Charlotte Rampling
(Alice Pollock - リシャールの妻)
Jacques Bonnaffé
(Nicolas Chevalier)
Véronique Affholder (Francine)
Michel Cassagne (獣医)
見た時期:2006年7月
ファンタにも出せそうな奇妙な物語です。以前ファンタに出たスペイン映画 El Habitante incierto と比較できるかも知れません。Lemming は大分良い所までレベルを保ち、最後の3分の1ほどでこけてしまいます。130分近い作品ですが、100分ほどにまとめれば締まった作品になったかと思えます。
最初の3分の2ほどは結構良いレベルで、El Habitante incierto よりユーモアの切れも良く、客席からは大笑いが何度も出ました。非常に日常的な若夫婦の描写に、 奇妙奇天烈な、カフカ的とも言える状況が飛び込んで来ます。その信じられないような事態に遭遇して、これ以上平凡になれないほど平凡な表情を見せる若夫婦。そのずれがユーモアとして非常に成功しています。私はゲンズブール一家は特に好きでも何でもないのですが、今回のシャーロッテの起用は成功しています。彼女は女優と言っていいのか分からないほど普通の表情を見せ、演技をしていないと言われても仕方ないほどその辺にボーっと立っていたりするのですが、まさにそれが監督、脚本の狙いなのです。
ゲンズブールやソフィー・マルソーなどフランスで高く評価されている女優が私の好みでないため、最初は見るのを躊躇いました。しかし見て良かったです。ゲンズブールは今年のファンタのフィナーレにも出ています。
ローラン・ルーカスはマーチン・ランドーの若い頃といった顔の普通の男性。どこかで見た顔だと思ったら、ファンタの変態村で主演を張っています。ひどい邦題をつけたと思います。この名前に引かれて映画館に行くと、全く違うストーリーを見せられますからご注意を。非常に固い真面目な話です。不条理という点では Lemming と共通するものがあります。Lemming のアランはごく平凡な考え方をする男の役で、彼も上手に表現しています。また、2007年のファンタでは憎らしいほどの知能犯で好演しています。
アンドレー・デュソリエーは以前はテレビで活躍していたベテラン。スパイ・バウンド、ルビー&カンタン、タンギー、アメリ、ヴィドックなどファンタ作品にも顔を出しています。外見は立派な白髪の紳士なのですが、立派な紳士の役だけではなく、嫌われそうな役や妙な役も演じています。フランスの俳優は日本と似て、恐ろしくたくさんの映画に顔を出す人が多く、本人がその気なら色々な役が貰えるようです。
彼の妻を演じるシャーロット・ランプリングは英国人ですが国際女優で、欧州では色々な国に関わっています。最近私が見た作品はフランス関係が多いです。 有名どころでは愛の嵐や地獄に堕ちた勇者どもで個性的な眼差しを見せた人。そのためその後も妙な役が回って来ることが多かったようです。スイミング・プール、ゴッド・ディーバなどは比較的普通の役と言えるでしょう。Lemming では愛の嵐などとは違った意味で変わった役を演じています。以前の神秘的な視線はなりをひそめており、最近の彼女からはもう少し水分を取って元気になったらと思うほど皮膚が乾いた印象を受けます。歩く時に難儀な様子も見えるので、もしかしたら事故にでも遭って体調を崩しているのかと思ったりしました。
これで重要な登場人物が揃ったわけですが、ゲンズブール、ルーカスが若夫婦、デュソリエー、ランプリングがルーカスの会社の社長夫妻を演じます。
アランはポラックの会社の重要な技術者。夫婦で最近トゥールーズに引っ越して来ます。収入が良いためか高級住宅街に住んでいます。社長に目をかけられ、仕事は順調。ある日社長夫妻がアランたちの新居に夕食に招かれて来ます。ところが遅刻。夫人が何かいらついていて、夫婦の間には亀裂が見え隠れします。
夫人の言動は非常にエキセントリックで、若夫婦は毒気に当てられた感じ。この夜は気まずい中で別れます。翌日社長はアランに謝罪し、社長夫婦があまり上手く行っていないことを認めます。
この出来事の少し前、アランが仕事に行っている間に妻のベネディクトは流しが詰まっていることを発見。戻って来た夫に言います。夫は少しして流しの下の管にレミングという動物が詰まっていて、瀕死の状態なのを見つけます。ベネディクトは翌日その動物がハムスターだと思い込んで、獣医の所へ持ち込みます。獣医がこれはレミングだということをつきとめ、「フランスの下水に詰まっているのは実に不思議だ」と言います。
私が知っているレミンゲ(ドイツ語の言い方)は小さな機械だけでした。任天堂だかどこかのゲームで、カードを入れてスタートすると、小さな動物がうじゃうじゃ出て来ます。その動物が自殺する前に救い出すというのがゲームのルール。こういうゲームは苦手な私もレミンゲはおもしろく思え、高いレベルまで行ったことがあり.ワす。
本物のレミンゲは北欧に生息し、ねずみの仲間だそうです。素人がハムスターと間違えるのも当然という姿。泳げる動物なのになぜか海で集団自殺をすることで有名です。ゲームも崖から落ちて死ぬとゲーム・オーバー。なぜ集団自殺をするのかは謎で、繁殖し過ぎた時にパニックを起こすのだろうと言われています。いずれにしろ普通の状態ではトゥールーズの台所に単独で現われるような動物ではありません。
映画 Lemming を最後まで見ると、レミングの登場はその後の出来事を暗示していたのだと分かります。
妙な終わり方をした夕食の翌日、アランが珍しく残業をしているとそこへ社長夫人が現われ、アランを誘惑します。アランは危うく理性を失いかけますが、ぎりぎりのところで思いとどまり、夫人は諦めて帰ります。特に他意は無く、波風を立てたくないと言った理由でアランはこの事は誰にも言いません。
しかし事情はばれてしまいます。何よりもまず、夫人が昼間単独でベネディクトを訪ね、言ってしまうからです。社長も知っていました。というか想像がついていました。
社長がたまたま韓国に出張している時、夫人はアランがまだ会社にいる間にベネディクトを訪ね、やや軌道を逸した話をした後「寝かせてくれ」と言って2階の寝室で眠ってしまいます。余所の家に来て、いきなり「寝かせてくれ」なので呆気に取られながらも何とか自制してベネディクトは寝室を用意します。ところが夫が帰って来ても夫人は帰る様子を見せません。社長に連絡して家に帰ってもらおうとベネディクトは言いますが、社長は海外出張中。アランが実力行使で彼女に帰宅を促そうとしたその時、彼女は頭を撃って自殺してしまいます。
やれやれ。しかしアランたちの責任で無いことは警察も社長もよく分かっているらしく、トラブルは起きません。問題は全然別なところから起きます。
夫人の自殺の後始末をしているベネディクトの様子が徐々におかしくなって来ます。ビッグ・ホワイトでホリー・ハンターが演じたような急激な怒りをベネディクトが示すようになります。そうです。生前の社長夫人にそっくり。
病名は詳しく分からないのですが、精神的な理由でなく、肉体的な理由で神経のバランスが崩れ、怒りを上手く押さえられなくなる病気があるのだそうです。一定期間押さえが効いてもいずれは間欠泉のように爆発してしまうのだそうです。どんな人間でも腹を立てたり、嫌な気分になって罵りたくなる時がありますが、社会ではそれを上手に迂回させ、ストレス解消にバンドをやったり、スポーツに凝ったりします。TPO がうまく行っている限り問題はありません。人はお互いに何かを嫌がる時はあるものだと考えて暮らしていますから。もしその TPO が上手く行かず、まずいタイミングでまずい人の前で爆発してしまったら、キャリアがフイになったり、必要も無い人を怒らせてしまったりします。これはそういうバランスが崩れる病気なのだそうです。かなりの点が解明されていて、精神病ではないとされています。
ビッグ・ホワイトではロビン・ウィリアムズが最愛の妻にこの病気の治療を受けさせるためにお金を工面しなければ行けないという筋でした。Lemming のランプリングを見ているとそういう病気なのかと思ってしまいます。しかしこのストーリーはさらに一歩深い所へ目を向けている様子。
というのはディナーの最中に夫を責めたりしている夫人の言い分にいくらか正統性が見られるのです。社長のお供で旅行したアランは社長が夜に娼婦を呼んでいることを発見。白髪の老紳士の夜の顔を見てしまいます。ま、この程度は男の甲斐性かと許せる人もいれば、こういう男なら仕方ないと夫人に同情する人もいるでしょう。
その上社長は長年知っている夫人のやりそうな事として、アランを誘惑したことも承知していました。「彼女と寝てくれても良かった」と言われ呆気に取られるアラン。社会の表のルールと裏の現実を社長はしっかり区別して両方の世界で生きていた様子なのです。小市民的に真面目に表のルールを守っていたアランは妙な気分になります。
いくつかの出来事を経て、観客は徐々に夫人の死後彼女の精神がベネディクトに乗り移ったのかと思い始めます。やさしくてのんびりしていた彼女の性格が徐々に大胆、暗く、残酷になって行くのです。不条理続きで追い詰められて行くアラン。変態村でこういう役を経験済みのルーカスは軽くこなしています。
惜しむらくは最後の3分の1。話が長くなり過ぎて、観客の大笑いも聞こえなくなり、私もうつらうつらし始めました。いくつか妙な出来事に説明があったのですが、完全に納得が行かないまま終わり。一応「あれは事故だった、あなたは夢をみたのよ」でケリをつけたようです。
この監督、一筋縄では行きません。1番最後、クレジットが出るところでかかる音楽はママズ&パパズの私の小さな夢。ここでソロを取っているキャス・エリオットの歌声が甘く響きます。このシンガーと Lemming を引っ掛けて、苦い余韻を残して終わります。ふーん、なるほどと納得のエンディングです。
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